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2020年6月の記事一覧

 情報を整理して、やることをしぼりこむ

 中学生の皆さんにとっては少し難しい話になってしまいました。
 ここまでをまとめます。
 今、勉強に求められることは「文化の継承」と「文化の創造」です。「文化の継承」は学校教育にずっと求められてきたことで、知識の量と質で測ります。「文化の創造」は新しく求められるもので、問題解決ができることで測ります。でも、問題解決そのものはテストで簡単に測ることができないので、問題解決の力をもっているかどうかを記述式問題で測ります。記述式問題に答えられることは、知識を道具として使えていることになるからです。
 このようにまとめると、中学生の皆さんは「今までよりも勉強しなくてはならないことが増えて大変だ」と思うでしょう。中には「テレビのクイズ番組に出演している人たちは知識量はあるけど、問題解決の力はあるのだろうか」と疑問に思う人がいるかも知れません。
 ……テレビのクイズ番組に出演して、たくさんの知識をもっている人は問題解決の力をもっていると思います。というのは、知識を覚える過程で、情報を収集し、整理し、しぼりこんで覚えるという手続きを踏んでいると思われるからです。その手続きは問題解決に必要な手続きです。
 このように考えると「文化の継承」の力を付けつつ、「文化の創造」の力を付ける方法が見えてきます。それは、勉強の結果だけではなく、そのプロセスも大切にするということです。大切にするプロセスとは、情報を収集し、整理し、しぼりこみ、利用するという情報活用のプロセスです。作戦を立てて、勉強に望むということです。作戦というと仰々しいですが、やみくもにかたっぱしから理解し、暗記するのではなく、情報を整理し、理解や暗記をするのです。やることをしぼりこむということが問題解決の力を高めていくことにつながります。      校長 見目 宗弘

記述式問題が増える理由

 「文化の継承」や「文化の創造」をテストや入試で考えるとどういうことになるのでしょうか。
 文化を継承する力は、従来のテストで診断できます。では、文化を創造する力を診断するには……。その診断は難しいです。何かを創造することは時間がかかり、評価が難しいからです。
 とすると文化を創造する力をテストで評価できないのでは?
 新しい文化は、今までの知的財産を評価したり否定したりして、創造されます。その意味で「文化の継承」と「文化の創造」とはつながっています。つながりは、今までの知的財産が道具になるということです。
 このことから文化を創造する力をテストするには、知識を材料として活用できるかどうか問えば良いことがわかります。出題形式としては次のようになります。

 教育改革が進み、数年後には大学入試が「課題解決型」に移行します。それに合わ
 せて高校入試も変わり、今後は全教科で出題形式や内容の変更が行われると思いま
 す。中でも、記述式問題が増えるのは間違いないでしょう。
 「勉強のコツ 記述解答の出題 今後増加」開倫塾教務本部長 渡辺博(『読売新
 聞』2016年(平成28年)7月17日(日))
 
 知識をコンパクトにし、知識を道具として使いこなせるかどうかを見るために、記述式問題が増えるのです。文化を創造する力の診断です。情報を大つかみに把握し、使うことができる力が重視されます。課題解決の過程、そして、課題解決の手続きがとても大切になってきます。           校長 見目 宗弘

「文化の継承」と「文化の創造」と

 今、求められるのは課題解決の力だと示しました。
 このことを考えるのに適した新聞記事があります。全日本科学教育振興委員会委員長の大木道則氏の「論点『学力』考え方 再考が必要」(『読売新聞』2002年(平成14年)5月3日(金))という記事です。
 大木氏は科学技術振興の立場から学校教育についての意見を述べています。大木氏は「多くの場合、『学力』=『知識量』であるという定義が、見えかくれする。」と、一般的には学力は知識量であるとされていると指摘します。しかし、科学者や技術者はそのような立場とは異なることを述べます。

 しかし、科学者・技術者に「学力」とは何かと尋ねれば、それは子供が持つ知識の量
 だと答える人は、まずいない。科学者たちは、実力は知識の量だけでなく、それを活
 用して研究に役立てることが重要だとよく分かっているからである。
 
 そして、科学者・技術者と国民の多くの考え方の違いを次のように説明します。
 
 それでは、国民の多くが持つ「学力」に関する解釈と、科学者・技術者が持つ解釈に
 差があるのはなぜだろう。その理由は、学校教育において「文化の継承」が重視さ
 れ、創造的な活動が軽視されてきたことによると考えられる。
 
 確かに学校は「文化の継承」を大切にしています。そのため、学習の結果としての知識とその量が大切にされます。大木氏はこのことが次の問題を生じていると指摘します。
 
 まず事実を記憶してしまえという教育は、「なぜそうなのか」と考える人間の基本的
 行為を避けるように働く。これは、科学技術の発展にとって、極めて深刻な負の材料
 なのである。科学の問題にチャレンジする時、いつも正解を教えられていた子供たち
 は「なぜそんな面倒なことをやらねばならないの」という疑問に直面する。知識の中
 に解決法が見つからない場合には、途中で挫折してしまうのはまことに残念なこと
 だ。

 この説明の後、大木氏は次のようにまとめます。

・知識量と、問題解決に努力する力、この二つを兼ね備えた人こそ「学力がある」と言
 われるべきだと私は考える。
・「文化の継承」とともに「新しい文化を創造する」ために、教育や学力に関するとら
 え方を根本的に考え直す必要がある。
 
 大木氏のこの記事は18年も前のものです。先の「中教審答申」を思い出すと、大木氏の指摘した方向で教育は動いているように思います。今、勉強では「文化の継承」ができ、なおかつ「文化の創造」ができることが求められているのです。
                       校長 見目 宗弘

求められる課題解決の力

 では、今、どういう学力が求められているのでしょうか。
 生徒の皆さんが学ぶ教科書は文部科学省の示す「学習指導要領」というものを受けて作られています。「学習指導要領」でAについて学習する必要があると示されると、教科書にAのことが載るようになります。
 その「学習指導要領」に影響を与えるのが、「中教審答申」です。これは専門家の人たちが集まって、教育について議論し、「これからの教育はこうあるべきだ」と示したものです。平成28年に示された「中教審答申」には次のようにあります。

 “今学校で教えていることは時代が変化したら通用しなくなるのではないか”といっ
    た不安の声もあり、それを裏付けるような未来予測も多く発表されている。
 
 現代は、時代の変化が速く、学んだことが役に立たなくなるのではないかという指摘です。このような時代だから、次のことが求められます。

 解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解いたり、定められた手続を効率的に
 こなしたりすることにとどまらず、直面する様々な変化を柔軟に受け止め、感性を
 豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生を
 よりよいものにしていくのかを考え、主体的に学び続けて自ら能力を引き出し、自
 分なりに試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、(中略)よりよい社会と
 幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要である。
 
 長い1文ですが、要は今までの学力にとどまらず、課題を解決する力を付けることが大切であるということです。とても難しいことが教育に課せられました。なぜなら、課題を解決するのは、大人でも簡単ではないからです。
 次回はもう少し、このことを掘り下げて考えてみましょう。 校長 見目 宗弘

求められる学力が変わってきている

 まず、勉強について考え直してみたいと思います。
 勉強方法さえ分かれば、勉強について考えなくても良いように思います。しかし、勉強について考えなくてはならないのは、求められている学力が変わってきているからです。求められている学力が変わってきているということは、テストや入試の問題も変わりつつあるということです。記述式の問題が増えてきているのはそのためです。これらに対応するためには、対応できる力をつけるための学習方法が選択されるべきです。だから、勉強について考える必要があるのです。     校長 見目 宗弘