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記憶の仕組み

 生徒の皆さんは、繰り返し練習して覚えることはもう何度も行っていることと思います。しかし、記憶の仕組みを理解して実行している中学生は少ないのではないでしょうか。仕組みを知れば、効果的な暗記をすることができます。そこで記憶の仕組みについておさえていきます。
 記憶は脳の大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)、大脳皮質(だいのうひしつ)という部分がかかわります。大脳辺縁系の中で特に記憶に関わるのは海馬です。海馬は睡眠時間が長いと大きくなり、短いと小さいです。大きさが生活習慣に影響されます。大脳皮質には前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉、左脳、右脳があり、この中で特に記憶に関わるのは側頭葉です。記憶は海馬→側頭葉という順に記憶されます。 
 
 私たちが文字を見たり、音を聞いたりと、その情報を最初に処理する場が海馬であ
 って、海馬は脳の番人のようなものです。たとえば、ある単語を見たとき、海馬は
 その際、「知っているか、いないか」「忘れているか、いないか」を判断します。
 では、どうやって判断するかというと、まず海馬は前頭葉に問い合わせを行いま
 す。前頭葉は記憶の司令塔のようなもので、保存場所である側頭葉の中を調べま
 す。その単語が側頭葉に保存されていないものならば、その単語は記憶されていな
 いものですから、前頭葉は側頭葉にとりあえずは保存するように指示します。海馬
 自体も記憶を保存できるのですが、それは一時的なもので、長く記憶できる保存先
 が側頭葉なのです。いわば、側頭葉は「記憶の倉庫」と言える存在です。
 ・海馬……一時的な保存場所
 ・側頭葉……ある程度長期的な保存場所
 脳が最初に記憶事項を取り扱うのは脳の番人である海馬ですが、学習に必要なのは
 いかに側頭葉に記憶されるか、なのです。pp.57-58
 『奇跡の記憶術 脳を活かす奇跡の「メタ記憶」勉強法』出口汪著(フォレスト出
 版)
 
 海馬に保存された記憶は短期記憶と言われ、側頭葉に保存された記憶は長期記憶と言われます。側頭葉が長期記憶の保存場所で、テストに必要な記憶は側頭葉に保存されなければなりません。ポイントとなるのは脳の番人の海馬です。しかし、その海馬は記憶する情報の選別の基準が厳しいのです。
 
 通行許可の判定基準はなんと、「生きていくために不可欠かどうか」なのです。 
 (中略)「英単語のひとつやふたつ覚えなくても命に別状はない」といって通して
 くれません。短期記憶から長期記憶になることが許されないのです。pp.25-
 26『最新脳科学が教える高校生の勉強法』池谷裕二著(ナガセ)
 
 海馬に認めてもらえるのは「生きていくために不可欠なもの」だけです。暗記をしてもなかなか覚えられないのはそのためです。海馬はいじわるかというとそうではなく、実は海馬にも事情があります。側頭葉に記憶できる量が限られているため、記憶する情報を制限しなければならないのです。だから、海馬は不必要なものをどんどん忘れていきます。                                     校長 見目 宗弘

理解の当面のゴールはトップダウンの情報処理である(3)

 残念ながら教科書には「リード文」がありません。それは、最初に答えがわかってしまうとつまらないから、1つ1つ発見していけるように、教科書が構成されているためです。
 リード文は自分で作るしかないです。自分で作る場合、最初には作れません。内容を知らないからです。単元の区切りや終わりにノートにまとめていくことになります。まとめながら、学習内容を整理するので、理解が深まります。中学1年生や2年生で作ったノートはとっておき、入試の勉強のときに使いましょう。まとめを読むことで、自分で作ったリード文を読むことになり、一気に学習内容を思い出すことができます。まとめの文がリード文としての役目を果たします。
 参考として、新聞に載っていたまとめについての記述を示します。

 
 社会 教科書や単元や内容の区切りのよいところで、基礎知識を定着させるための
 「まとめノート」を作りましょう。まとめノートを作ると、細かな知識が整理さ
 れ、全体像や流れがつかみやすくなります。さらに、ノート作りは、要点をつかん
 で端的にまとめる練習になり、記述問題に対応できる力を養うことにもつながりま
 す。 開倫塾 渡辺裕子「社会は『音読とノート作り』」『読売新聞』2014年
 (平成26年)5月9日(金)

 
 理科 これらを全て正解するには、語句と公式に加えて、実験や観察の方法・手
 順、経過と変化の理由、注意点とその理由、結果とその考察、グラフや表の読み取
 りを総合的に理解し身に付けていることが不可欠です。そこで実行してほしいのが
 次の学習です。
 ①教科書の内容を、実験や観察、グラフ、表、写真などを含めて隅から隅まで丁寧
 に何度も読む。②実験器具の使い方、実験方法、観察の手順、結果をノートにまと
 める。頭にイメージが残りやすいように、図やグラフも手描きする。
 開倫塾 徳田進「理科 総合的な理解必要」『読売新聞』2015年(平成27
 年)5月22日(金)

 
 これらのノートがあれば、トップダウンの情報処理ができます。  校長 見目宗弘

 理解の当面のゴールはトップダウンの情報処理である(2)

 先の文章は洗濯について説明した文章です。洗濯とわかるとどうでしょう。文章が一気に理解できます。これがトップダウンの情報処理です。学習内容の理解では、このトップダウンの情報処理を目指します。
 それには、ポイントがあります。大まかな理解から細部に入っていくのです。

 
 何よりも重要なことは、まず「勉強内容の全体像をつかむ」こと。p.3
 全体像を大まかに把握し、部分の学習に入っていく。それが「すごい勉強法」の基
 本です。p.24 『すごい「勉強法」』高島徹治著(三笠書房)

 
 これはちょうど新聞の「リード文」を読むようなものです。新聞には「見出し」「リード文」「本文」があります。「リード文」は「本文」を要約したものです。写真の赤で囲んだ部分です。


 「本文」を読む前に「リード文」を読むと、だいたいのことが理解できます。そして、だいたいを理解した上で「本文」を読むとすでにあらましを知っているから「本文」の内容が入ってきます。
 大まかに理解した上で、細かく理解していくことでトップダウン的に情報処理をすることができます。                校長 見目 宗弘

 理解の当面のゴールはトップダウンの情報処理である(1)

 2つの情報処理があります。ボトムアップ処理とトップダウン処理です。次の説明の通りです。

 
 私たちが何かを認識したり判断を下したりするときには、脳の中で2方向の情報処
 理が行われます。1つは物事を詳細に丁寧に分析する方法で、これをボトムアップ
 処理と言います。もう1つは自分の知識や経験などから判断を下す方法で、トップ
 ダウン処理と言います。知識はトップダウン的に効率よく情報を処理するのに不可
 欠なのです。いくつか例を挙げましょう。例えば、手書きの汚い文字が読めるの
 も、「ほら、あれが、あれして」といった情報に乏しい発言が理解できるのも、全
 部、トップダウン処理のおかげです。欠けている部分を知識や経験で補って,認識
 しているわけです。pp.5-6『学習支援のツボ 認知心理学者が教室で考えた
 こと』佐藤浩一著(北大路書房)

 
 この説明だけでは実感できないので、次の文章を読んでほしいと思います。認知心理学の実験でよく用いられる文章です。何について書かれているかわかりますか。

 
 その手順は全く簡単である。まず、ものをいくつかのグループに分ける。もちろ
 ん、ひとまとめでもよいが、それは、やらなければならないものの量にもよる。も
 し設備がないためどこかよそにいかなければならない場合には、それが次の段階と
 なる。そうでない場合は、準備はかなりよく整ったことになる。重要なことは、や
 りすぎないことである。すなわち、一度に多くやりすぎるよりも、少なすぎる方が
 よい。この重要性は、すぐにはわからないかもしれないが、面倒なことは、すぐに
 起こりやすいのだ。その上、失敗は高価なものにつく。最初は、その全体の手順は
 複雑に思えるかもしれない。しかし、すぐにそれは生活のほんの一面になるであろ
 う。近い将来、この仕事の必要性がなくなるとは予想しにくいが、誰もなんとも言
 えない。その手順が全て終わったあとで、ものを再びいくつかのグループに分けて
 整理する。次にそれらは適当な場所にしまわれる。結局、それらは再び使用され、
 その全体のサイクルは繰り返されることになる。とにかくそれは生活の一部であ
 る。(Bransford & Jhonson,1973)

 
 私は最初この文章を読んだとき「一文一文の意味はわかるけれども、全体で何を言っているかわからない」という状態でした。これがボトムアップの情報処理です。ボトムアップの情報処理では、1つ1つ積み上げても全体として何のことかがわからないという状態が生じてしまいます。数学の応用問題を解いているときや国語の現代文を読んでいるときの状態に近いと思います。「わかるんだけれどもわからない」という状態です。                    
                        校長 見目 宗弘

アウトプットで理解が確かになる

 理解はインプットですが、アウトプット、つまり、表現してみると理解しているかどうかがわかります。

 
 自分がわかっているのか、いないのか、どうももやもやしているというときに、説
 明できるかどうかでチェックしてみるというのはすごく大切な勉強法だ。pp.74
 -75『勉強法が変わる本ー心理学からのアドバイス-』市川伸一著(岩波ジュニ
 ア新書)

 
 相手がいる場合は、相手に説明し、一人の場合は、ノートに書き出してみると良いです。また、アウトプットは知識の定着にもなります。

 
 かいつまんで話す練習をしているうちに、知識も定着してくる。ところが、こうし
 た練習をくりかえし行っている授業はほとんどない。授業の多くは教師が話すだけ
 なので、知識が定着するのが、教師になってしまっている。(中略)はじめは、教
 師の答えを復唱するのでもよいから、口に出して論理的に説明してみる練習が必要
 である。pp.44-45 『子どもに伝えたい〈三つのつの力〉』斎藤孝著(NH
 Kブックス)

 
 かいつまんで話したりノートに説明を書き出したり、これらは見落としがちな勉強法ですが、理解を深め、知識を定着させる勉強法です。   校長 見目 宗弘