理解の当面のゴールはトップダウンの情報処理である(1)
2つの情報処理があります。ボトムアップ処理とトップダウン処理です。次の説明の通りです。
私たちが何かを認識したり判断を下したりするときには、脳の中で2方向の情報処
理が行われます。1つは物事を詳細に丁寧に分析する方法で、これをボトムアップ
処理と言います。もう1つは自分の知識や経験などから判断を下す方法で、トップ
ダウン処理と言います。知識はトップダウン的に効率よく情報を処理するのに不可
欠なのです。いくつか例を挙げましょう。例えば、手書きの汚い文字が読めるの
も、「ほら、あれが、あれして」といった情報に乏しい発言が理解できるのも、全
部、トップダウン処理のおかげです。欠けている部分を知識や経験で補って,認識
しているわけです。pp.5-6『学習支援のツボ 認知心理学者が教室で考えた
こと』佐藤浩一著(北大路書房)
この説明だけでは実感できないので、次の文章を読んでほしいと思います。認知心理学の実験でよく用いられる文章です。何について書かれているかわかりますか。
その手順は全く簡単である。まず、ものをいくつかのグループに分ける。もちろ
ん、ひとまとめでもよいが、それは、やらなければならないものの量にもよる。も
し設備がないためどこかよそにいかなければならない場合には、それが次の段階と
なる。そうでない場合は、準備はかなりよく整ったことになる。重要なことは、や
りすぎないことである。すなわち、一度に多くやりすぎるよりも、少なすぎる方が
よい。この重要性は、すぐにはわからないかもしれないが、面倒なことは、すぐに
起こりやすいのだ。その上、失敗は高価なものにつく。最初は、その全体の手順は
複雑に思えるかもしれない。しかし、すぐにそれは生活のほんの一面になるであろ
う。近い将来、この仕事の必要性がなくなるとは予想しにくいが、誰もなんとも言
えない。その手順が全て終わったあとで、ものを再びいくつかのグループに分けて
整理する。次にそれらは適当な場所にしまわれる。結局、それらは再び使用され、
その全体のサイクルは繰り返されることになる。とにかくそれは生活の一部であ
る。(Bransford & Jhonson,1973)
私は最初この文章を読んだとき「一文一文の意味はわかるけれども、全体で何を言っているかわからない」という状態でした。これがボトムアップの情報処理です。ボトムアップの情報処理では、1つ1つ積み上げても全体として何のことかがわからないという状態が生じてしまいます。数学の応用問題を解いているときや国語の現代文を読んでいるときの状態に近いと思います。「わかるんだけれどもわからない」という状態です。
校長 見目 宗弘