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 理解は説明の仕方、説明内容、説明者に左右される(3)

 4 理解は感情に左右される
 理解が感情に左右されるのは、A10神経群と言われる脳の扁桃核(へんとうかく)と即坐核(そくざかく)が「おもしろい」、「おもしろくない」、「好き」、「嫌い」を判断するからです。これらがうまく機能すれば、好奇心が高まります。しかし、嫌いと思ってしまうと、「自己保存の本能」が働き、避けてしまうことになります。A10神経群は「自己保存の本能」を司るため、両刃の剣なのです。話を受け流すようにもなってしまいます。

 人間には自分を守りたいという自己保存の本能があります。しょっちゅう叱られて
 いると、脳は苦しくなって、脳自身を守るために叱っている人の話を受け流すよう
 になります。その状態が慢性化すると、だんだん人の話を真剣に聞かない脳ができ
 あがっていきます。p.73『〈勝負脳〉の鍛え方』林成之著(講談社現代新書)

 
 いつも叱ってばかりいる人が説明者だと、上記のように説明は全然入っていきません。説明者によって理解が左右されてしまうのです。
 また、数学の問題を見て、「難しい。」と思ってしまったときも、同じように「自己保存の本能」が働いてしまいます。


 「こんなむずかしいものはわからない。嫌いだ」と最初に否定的な「気持ち」が生
 まれると、自己保存の本能が働いて、それを避けたり、いいわけをして自分を守る
 行動をとります。p.80 『素質と思考の「脳科学」で子どもは伸びる』林成之
 著(教育開発研究所)

 
 嫌いなものから自分を守るために、問題文を粘り強く読み込むことができないのです。
 ただ、同じ問題を見て、粘り強く読める人もいるわけで、その違いはどこからくるのでしょうか。脳科学者の林先生は著書『素質と思考の「脳科学」で子どもは伸びる』(教育開発研究所)の中で、次のように説明しています。

 
 ここで、本来であれば、「正しい判断をする基盤となる統一・一貫性の本能の環境
 がおかしい」と前頭葉が判断し、「これはまずい……もっと勉強しよう」という
 「気持ち」が生まれてくるのです。ところが、少しくらい間違っても「まぁ、いい
 か」「だいたいできた」で終わらせてしまう学習をしていると、統一・一貫性の本
 能がゆるんだ状態となって、少しくらい間違っても気がつかないようになってしま
 います。p.80
 
 脳の前頭葉は「統一・一貫性の本能」を司り、筋が通っていて一貫した正しい判断を下す働きをしています。ふだんの学習で前頭葉を鍛えていないと、「難しい」という最初の印象を受けて、前頭葉が「この問題は難しい問題だ」と断定してしまうのです。しっかり読み込めば自力で解けた問題も、必要以上に難しい問題となり、理解できない問題となってしまいます。
 前頭葉を鍛えるにはどうしたら良いのでしょうか。林先生は次のように述べています。


 「統一・一貫性を望む本能」は、同じ遊びや練習、勉強をくり返すことによって鍛
 えられ、正しい判断力のレベルが上がってきます。ところが、目先の効率を重視し
 て、「同じ事をくり返すのは無駄だ」と思っている人が多く、「いつまで同じ事を
 やっているんだ!」という声が飛び交っています。これでは、普通の人には分からな
 い微妙な違いを 見分ける判断力を、本能のレベルから鍛えることができないた
 め、才能を持った子どもを育てることはできません。事実、たとえばアメリカ・メ
 ジャーリーグのイチロー選手のように超一流の人たちは、共通して、行動パターン
 や仕事の環境にまで一定に整え、無意識のうちに統一・一貫性の本能から判断力を
 高める習慣を持っています。pp.3 -4


 くり返しの学習の大切さを痛感します。       校長 見目 宗弘

理解は説明の仕方、説明内容、説明者に左右される(2)

 3 大切なポイントを理解する
 理解には理解のポイントがあります。それを押さえることで理解しやすくなります。
 認知心理学者の市川伸一先生は『勉強法が変わる本ー心理学からのアドバイス-』(岩波ジュニア新書)という著書の中で数学の理解のポイントを示しています。数学の勉強で大切なのは「日常モード」と「学問モード」の区別です。

 ぼくたちは、日常語については、定義をいちいち習わなくても、いろんな具体例を
 通して意味がわかっていることが多い。イヌの定義を聞いた覚えがある人はいない
 だろう。子どものころから「あれは、ワンワン」とか「あれは、ニャンニャン」と
 か教えられて,自分でも使っているうちに、意味をつかんでしまうのである。当然
 ながら、定義を求められてもうまく言うことができない。こういうのは、日常モー
 ドの学習といえる。一方、学校での勉強はだいぶようすが違う。数学をはじめ定義
 がたくさん出ている。もともとは、それぞれの学問の中で決められたもので、それ
 が教科書に書かれている。「……を○○という」というパターンになっているもの
 は、まず定義だと思ってさしつかえない。それを通して、意味を理解せよと言われ
 るのである。これが学問モードの学習だ。それまで日常モードでやっていた子ども
 にとってはかなりつらい。でも、とりあえず、この2つの習い方の違い、つまり
 「日常モード」と「学問モード」の違いを意識しておくこ とは大切だ。pp.68
 -69

 数学の勉強のポイントは「学問モード」の勉強に切り替えることです。

 習ったはずなのにわからない、説明できないという人は、勉強方法を直したほうが
 いい。日常モードでの学習に留まっている可能性が高いからである。学校で習う教
 科の世界とは、もう学問モードにはいっているのだ。もちろん、学問の世界とまっ
 たく同じではない。定義が簡略化されたり、あいまいにされたりしているところは
 あるが、少なくとも中学校、高校では、もうその入口から中にはいっている。p.
 73
 
 「学問モード」の勉強でかんじんなポイントは「定義と具体例」を押さえることです。

・学問モードでは定義をつかって学習やコミュニケーションがなされるんだけど、そ
 れだけじゃわかりにくいんで、具体例とセットにするわけだ。それが学び方の第一
 歩だよね。p.73
・では、うまく説明できなかったときは、どうするのだろうか。簡単なことである。
 教科書や参考書を見直してみればいい。とくに、定義と具体例に注意して読むの
 だ。ぼくが学習相談をする中で見ている限り、そうした読み方をしている生徒はほ
 とんどいない。数学や物理では、教科書などほとんど読まずに、問題を解いて答え
 合わせをしているだけという生徒がすごく多い。それでは先生の解説や、テスト問
 題の意味さえわからなくなってくるのも当然である。pp.73-74

 
 このように大切なポイントを押さえて理解することで、理解しやすくなります。
 各教科、それぞれの単元でポイントがあります。ぜひ、各教科の先生にポイントを教えてもらってください。4に続く。       校長 見目 宗弘

 理解は説明の仕方、説明内容、説明者に左右される(1)

 理解は理解すべきものの示され方によって、わかりやすくもなったり、わかりにくくなったりします。また、説明者にも左右されます。理解は感情に左右されるのです。そのことを見ていきます。

 1 簡単なことを先に理解し、難しいことを後から理解する
 理解には順番があります。簡単なことを先に理解し、後から難しいことを理解するという順番です。大まかに理解し、その後で細かく理解するということもそうです。実は教科書がこのように作られています。教科書は、簡単な問題から難しい問題へと配列されています。教科書をていねいに読み込んでいけば理解しやすいようになっています。


 2 適切な量を理解する
 また、理解には量も関係します。一度にたくさんのことを理解しようとすると理解しきれません。そのため、量をしぼりこんで理解することが良いです。これを実践に移すと次のようになります。

 参考書の内容をスムーズに理解する秘訣 添野航平(仮名)・文科1類1年
 小さな範囲を重点的に繰り返し読む
 「はやる気持ちに押されて、先へ、先へとひたすら進んでいくのは、私はあまりお
 すすめできません。1回の勉強時間単位で考えるなら、広範囲をザッと流すのでは
 なく、限られた範囲を重点的に何度も繰り返し勉強する方が、絶対的に効果的で
 す」。
 「例えば参考書を読むなら、すぐに頭に叩き込もうとするのではなく、初回は軽く
 読む程度に、回を重ねるごとに、深く理解していくようにした方が、スムーズに進
 みますよ」。p.106 『東大生が選んだ勉強法「私だけのやり方」を教えま
 す』東大家庭教師の 会著(PHP)

 
 3に続く。                  校長 見目 宗弘

理解には際限がない

 勉強方法を考えるときに「理解」→「定着」→「応用」という流れで考えていくと書きましたが、理解には際限がありません。
 例えば、皆さんが見知らぬ街の指定された目的地に行かねばならないとします。教えてもらった道順どおりに行くと目的地にたどり着けます。ひとまず「道順がわかった」と言えます。それでも、一本違う道に入り込んだとたんに道に迷ってしまいます。このようなとき、迷いながらもうろうろしながら街の様子がわかってきます。歩き回ったことで、目的地までの新しいルートがわかってきます。そのとき「新しい道順がわかった」ことになります。このように理解には際限がありません。同じことが勉強でも言えます。

 自分では既有知識を駆使し、制約条件のすべてを充足する、一応もっともらしい完
 全な説明をうみ出すことができた、その意味でよくわかった、と思っても、既有知
 識を異にする別の人にとっては必ずしもそうではない。それが相手への質問や批判
 となって出てくることになり、これに答えようとすると、今までの説明(理解)で
 は不十分で、さらにもっとわからなければならない部分があることにお互い気づ
 く。そこでさらにまた考え続けることになる。(中略)こうして「わかっている状
 態」から「わからない状態」へ、さらに再び「わかっている状態」へのいう具合
 に、二つの状態をくり返しながら、次第により深く理解が進んでいくのである。
 p.129 『人はいかに学ぶか 日常的認知の世界』稲垣佳世子・波多野誼余夫
 著(中央新書)

 「わかっている状態」というのは一安心している状態で、別の角度からものを見ると「わからない状態」になってしまうのです。「わからない状態」を解消しようとしてさらに理解すると次の段階の「わかっている状態」になります。理解には時間がかかります。

 いいかえれば、理解をともなう学習には時間がかかるのである。時間に追われ、多
 くのことを速やかに処理しなければならない場合には、とても深い理解など達成で
 きない。p.63 『人はいかに学ぶか 日常的認知の世界』稲垣佳世子・波多野
 誼余夫著(中央新書)

 
 勉強方法において、「理解」→「定着」→「応用」という大まかな流れはありますが、「定着」においても「応用」においても、理解はかかわっています。「定着」と「応用」を早く行いたいという気持ちがあるでしょうが、「理解」に時間をかけ大切にしてほしいと思います。             校長 見目 宗弘

難しいことは入門書や概説から理解する

 国語や社会や理科の難しさは、数学や英語の難しさとは違います。ある単元はわかるけれども別の単元はわからないという難しさです。例えば、理科で「天気」のところはわかるけれど、「電気」のところはわからないという、部分的な難しさです。
 わからない理由は、数学や英語と同じで、その分野の蓄積された情報が不足しているから、新しいことを理解できないのです。
 これは大人でも同じです。私は哲学書を読んだとき、字面は追えても、内容は全く入ってきませんでした。それどころか、読み進めるうちに眠くなってきてしまいました。哲学に関して、蓄積された情報がなかったため、理解できなかったのです。
 私は入門書を読み、大筋を理解した上で、もう1度哲学書を読み直しました。そうすると、1回目より、ずっと理解できるようになりました。
 入門書や概説から入るということは、苦手な分野や領域を理解する上でとても重要なことです。東大生もこのことを勉強法に活用しています。

 レベルの高い本に挑戦するための良い方法 高瀬明美(仮名)・工学部3年
 難しい本を読む前に、雑誌を探す
 「私の場合ですが、例えば現在学んでいる建築関係の難しい本に挑戦しなければな
 らないとき、まずはそれに類するちょっと軽めの雑誌や、写真が多めの本を探して
 きて読む。そして、少しでも興味が持てるようにするわけです」(中略)
 「自分にとってとっつきやすいところからアプローチし、興味が持てるようになっ
 たら、徐々にステップアップすればいいのではないでしょうか」。p.108
 『東大生が選んだ勉強法「私だけのやり方」を教えます』東大家庭教師の会著
 (PHP)

 
 この事例は興味をもつために雑誌や写真が多めの本を読むという事例ですが、簡単な本を読むことで、情報が蓄積されています。
 苦手な分野、苦手な領域の学習では、いきなり全てを理解しようとせず、大まかな内容から理解した方が理解しやすくなります。ただ大まかな内容がまとめられたものが教科書には出ていないので、現時点ではそこが難しいところです。(トップダウンの情報処理を行うところで述べますが、「自ら大まかにまとめること」が方法かと思います。)                   
                          校長 見目 宗弘